2015年4月5日日曜日

マスメディアによる名誉回復を祈る≪平成26年9月≫


東京電力福島第1原発事故をめぐって、政府が吉田昌郎所長(当時)への聞き取り調査の結果をまとめた吉田調書について、朝日新聞社が11日午後7時半から、記者会見を開いたことは、既にご案内の通りです。
問題とされている記事は、今年520付の朝刊で、調書は非公開扱いになっている中で、所長命令に違反、原発撤退という大見出しで、大々的に取り上げているものです。朝日新聞が問題にした点は、東日本大震災から4日が経過した平成23315日の朝の、第1原発の所員の対応でした。第1原発の所員の9割にあたる約650人が、吉田氏の待機命令に違反。10キロ離れた福島第2原発へ撤退と断じた上で、東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた。葬られた命令違反。このように東京電力の事故対応ぶりを大いに批判したわけです。
ところが……です。
朝日新聞の記事に対して、産経新聞は818日付の朝刊で、命令違反の撤退はなしと、解釈が正反対の内容の記事を報じました。この動きに、他社も追随するかのように、NHKは824日、読売新聞と共同通信は830日、いずれも命令違反ではないと指摘しております。特に、私も購読している読売新聞は、社説の中で「朝日新聞の報道内容は解せない」と明確な疑問を読者に滔々と訴えていました。
朝日新聞の報道が出た際、当時現場にいた所員からは怒りの声が広がったといわれています。特に、吉田氏の遺族の心労は大きく、涙を流したとも言われています。私自身も、311後、視察で何度も福島に足を運び、現場の皆さんからのお話を聞いてきただけに、この度の記者会見で朝日新聞のトップが何を語るのか、大いに注目したところです。
東京・築地の記者会見場。木村伊量社長ら幹部が姿を現し、冒頭より語り始めました。「朝日新聞は東京電力の事故調査委員会が行った吉田所長への聴取、いわゆる吉田調書について政府が非公開としていた段階で独自に入手致しまして、520日付で第一報を報じました。その内容は315日朝、東電社員の9割にあたる650人社員が、吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第2原発に撤退をしたというものでした」「吉田所長の発言を紹介して、過酷な事故の教訓を引き出し、政府に全文公開を求める内容でした。しかし、その後の社内での精査の結果、吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、命令違反で撤退という表現を使った結果、多くの東電社員らがその場から逃げ出したかのような印象を与える間違った記事だと判断致しました。『命令違反で撤退』の表現を取り消すとともに、読者および東電のみなさまに深くおわびを申し上げます」。
その後、木村社長は着席して語り続けます。「これに伴い、報道部門の最高責任者であります、杉浦信之編集担当の職を解き、関係者を厳正に処罰致します」「むろん経営トップとして私の責任も逃れません。報道にとどまらず、朝日新聞に対する読者の信頼を大きく傷つけた危機だと重く受け止めており、私が先頭に立って、編集部門の抜本改革など、再生に向けておおよその道筋をつけた後、速やかに進退について決断します。その間は社長報酬を全額返納します」「吉田調書は朝日新聞が独自取材に基づいて報道しなければ、その内容が世に知らされることはなかったかもしれませんでした。世に問うことの意義を大きく感じていたものであるだけに、誤った内容の報道になったことは痛恨の極みでございます」「現時点では、記者の思い込みやチェック不足が原因と考えていますが、信頼回復と再生のための委員会を早急に立ち上げ、あらゆる観点から問題点をあぶりだし、読者のみなさまの信頼回復に何が必要か、検討してもらいます」「同時に誤った記事がもたらした影響について、第三者機関に審理を申立てました。速やかな審理をお願いし、その結果は紙面でお伝えします」と。
記者会見全体を通じて、なんか人ごとのような語り口にがっかりするとともに、下のものを辞めさせて、自分が残って改革に勤しむというのもおかしいと感じたものです。あなたの時の不祥事でしょうに……。
そもそも普通の人が逃げるところに、東電社員の皆さんは行かれたわけです。そういった方々が、吉田昌郎所長の命令に違反して、逃げるということはないのでは……。そういった思いから、朝日新聞の報道は当初からおかしいとと思っていました。
私が知っているエピソードの一つを紹介しますと、1号機が水素爆発した311の翌日の12日、上司から、現場は極めて危ないと連絡を受けて関東地方の自宅に一旦帰ったものの、13日に、その上司から、原発に戻ってくれと要請されたので、妻と2人の幼い子供を残し、現場に向かった東電社員がいます。自分がやらなければ、一体誰がやるのだとの気概のもと、現場に到着するや否や、がれきをかきわけて、外部電源を原発につなぐための分電盤を運んだとのことでした。その際のたった1時間の作業で、被曝線量は8ミリシーベルトを超えていたそうです。
こうした数多くの無名戦士が、それぞれの立ち位置で、爆発が止められればいいと思って献身的に作業をしていたわけです。朝日新聞が、所長命令に違反と報じたときの、東電社員の皆さんの悔しさが目に浮かんでなりません。
吉田さんは、さぞかしいい人だったのでしょう。朝日新聞がどう報じようが訂正しようが、彼らの功績は変わらないことでしょう。多くの東電社員が、いまだに原発を離れることなく、除染作業の指揮に汗を流していのですから……。朝日新聞の手による彼らの名誉回復を切に願ってなりません。