2009年8月15日土曜日

グレイトなピアニスト

 7月3日から始まった、10日間にも及ぶ東京都議会議員選挙もようやく終わりを告げ、街の中にもゆったりとした空気の存在を感じている今日このごろ、過日の「バン・クライバーン国際ピアノコンクール」で、日本人として始めて優勝した「辻井伸行」さんと、幸運にも面会する運びとなりました。
何せ国際的にも評価の高いコンクールでの優勝者・チャンピオンです。その後も色々な形でスケジュールが入り込んでいるでしょうから、当日の「お見えになりましたよ」といった旨の案内が私のところにくるまでは、「本当に会えるのかな」と、心配というか、気が気ではありませんでした。と言いますのも、既に私の家族が、7月7日にあった「七夕○○○○」(何でもこれは毎年行われているコンサートらしいです)というリサイタルと言いますか、コンサートに、ようやくチケットを入手して、そのピアノに感銘を受けて帰って来たと共に、彼自身がこれからかなりのスケジュールをこなし続けるとの情報を得ていたからです。
一たび時の人になると、やっぱりこういう流れになっていくのですね・・・。
さて、そうこうする間に、予定の時間より20分も早く、「辻井氏来る」の報を受けました。ワクワクしながらも面会場所に駆けつけましたが、そのお隣には、「辻井いつ子」さん、つまりピアニスト辻井伸行さんのお母様も同席されていました。
 当日の辻井伸行さんとの面談参加者は、何も私だけではありませんでしたから、様々な角度からの意見交換がなされましたし、その意見交換・面談の節々から、私が今まで会ったこともないような、素晴らしい精神性と美意識を持った若者像が浮かび上がってきました。何よりも嬉しかった事は、この豊島区にお住まいである事は勿論でしたが、会話のところどころに、「何か私でお役に立つことがありましたら、おっしゃってください」とのフレーズが数多くでてきた事です。「このような謙虚な姿勢を同世代の若者に見せてやりたいな」、そう思ったのは私だけではないと思いますし、事実、彼がこの言葉を口にする度に、列席者の皆さんが、自身の一挙手一投足を、あるいは又呼吸を、止めるがごとき静謐な雰囲気に包まれていたようでした。
 と同時に、このような姿勢を持つわが子に育て上げたお母さんに対して、関心を抱かないはずもなく、私からの話は、お母さんに向けたものになっていました。
そこで、ここまで息子さんを立派に育ててきたお母さんに、「欧米と日本とで、ピアニストとして育てるにあたり、その環境に格差みたいなものはあるのでしょうか」、と聞いてみました。それは、かねてから私は、欧米の音楽、特にクラシックというものの年代的な厚みに関心を持っておりまして、モーツァルトやベートーベンといった音楽は、日本で言うと江戸時代にも当たる頃の音楽です。それが未だにかく家庭で、それぞれの街中で流れていて、それを未だに自然と聞いている文化に尊敬の念を持っているからです。今の日本で、はたして江戸時代の音楽をかくご家庭で流して聴いているといたことは、まずはありえないでしょう。
 そう力んで聞いては見たものの、そのご回答は極めてあっさりしたものでした。
「特に格差を感じたことはありませんし、今はむしろ、アジアの方が音楽に熱心かもしれませんね・・・」、といったものでした。
 最もこの質問から、辻井伸行さんが関連して話された事が興味津々で、ある意味で、すべての芸術家やアスリートに通じる事かもしれません。
「いつも中国や韓国のピアニストが最後のほうにまで残ってくるし、彼らは絶対優勝してやるんだといった気迫が物凄いんです。もうそれは彼らが弾いているピアノの音色でまず伝わってきます」「そういった中で、僕はいつも自分自身がピアノを弾くことを楽しんでやっている。自分らしいピアノ、自分のピアノをやることに集中することが、大切なんです」「特に、楽しんでやることがとても大事なんです」
そういった話を、身をゆすりながらしてくれました。
 既に、グレイトの域に達している感がありました。
 この若者の未来がとっても楽しみになってきましたし、この子を育てたお母様には、全国をめぐってわが子の才能を発見し、それを伸ばしたお話を講演してもらいたいものです。


※ 辻井伸行さんプロフィール
昭和63年生まれ。
平成2年  2歳 ピアノに触れる。2歳3ヶ月、母の口ずさんだ「ジングルベル」       に合わせておもちゃのピアノで演奏。
平成8年  8歳 モスクワ音楽学院大ホールで演奏。
平成10年 10歳 ピティナ・ピアノコンペティションD級で金賞。
        アメリカ(カーネギーホール)、チェコ、台湾(国家音楽庁)などでも       演奏。
平成12年 12歳 サントリーホールで初リサイタル。
平成14年 13歳 フランスで佐渡裕指揮のラムルー管弦楽団と共演。
平成14年 14歳 東京オペラシティ・コンサートホールで東京交響楽団と共        演。
平成15年 15歳 やまと郡山城大ホールでピアノリサイタル。
平成16年 16歳 東京交響楽団の定期演奏会のソリストに抜擢。
平成17年 17歳 第15回ショパン国際ピアノコンクール(ポーランド・ワルシャ       ワ)に最年少で出場。「ポーランド批評家賞」受賞。
平成19年 19歳 デビューアルバム発売。
平成20年 20歳 第13回バン・クライバーン国際ピアノコンクール(アメリカ・テ       キサス)で優勝。

※ バン・クライバーン国際ピアノコンクール
アメリカで開催される国際的なピアノコンクールで、チャイコフスキー国際コンクールの第1回の優勝者、バン・クライバーンを祝して、昭和37年より、原則4年ごとに開催されている。開催地はテキサス州フォートワース。
 
※ 同優勝者一覧
1962 ラルフ・ボダペク。
1966 ラドゥ・ルプー。
1969 クリスティーナ・オルティーズ。
1973 ウラディミール・ビアルド。
1977 スティーブン・デ・クローデ。
1981 アンドレ=ミシェル・シューブ。
1985 ホセ・フェガーリ。
1989 アレクセイ・スルタノフ。
1993 シモーネ・ペドローニ。
1997 ジョン・ナカマツ。
2001 スタニスラフ・ユデニチ。
    オルガ・ケルン。
2005 アレクサンダー・コブリン。
2009 辻井伸行。
    チャン・ハオチェン。