2015年4月5日日曜日

第91回箱根駅伝≪平成27年1月≫


皆様、新年あけましておめでとうございます。本年も、昨年に引き続き「時事一滴」を、何卒よろしくお願い申し上げます。

さて、この新年号をお読みの頃には、街中の門松も外され、お正月ムードも収まっていることかと思いますが、お正月の恒例のイベントの一つと言えば……、やっぱり……、何と言っても箱根駅伝でしょう。
長い歴史をもつ箱根駅伝も、今年で91回目となり、今年も若さ溢れる選手達の逞しい走りを見ることが出来ました。何かの競技に取り組むにあたって目標とすべき場があるのはとても大切でありかつ幸福なことです。
以前、とある番組で高校野球の特集をしていた時、解説者が「『甲子園』という誰もが憧れる場を目指すことが出来るというだけでも高校球児達は幸せだ!!」と言っていましたが、大学長距離界の「甲子園」は、やっぱり箱根駅伝だと思います。高校野球の甲子園と言い、大学駅伝の箱根路といい、そのスポーツの総本山ともいうべき大会は、開催場所が粋だなと感じます。

箱根駅伝の魅力は沢山あると思いますが、選手達のかける思いの大きさが、正月の箱根路をよりドラマチックなものに仕立て上げていると思います。
何かに耽溺した時の人間のパワーは本当にはかり知れず、それらがぶつかり、せめぎ合う箱根駅伝は見る者を圧倒する力を持っています。開催時期が正月というのもなんとも粋です。正月と言えばoffモードの方が多いでしょう。日常の雑事から少し距離を置ける貴重な時期に、各大学の選手達の必死の走りを見ると、何故か感動が心に伝わりやすい気がします。こたつでくつろぎながら箱根駅伝を見てパワーをもらい、一年の英気を養う……。日本人の生活にここまでマッチしたイベントもそう多くはないだろうと思っています。

そんな今年の箱根駅伝。
話題をさらったのは青山学院大学でした。
優勝からは毎年縁の無かった大学が往路、復路共に優勝。さらには10時間50分を切る10時間4927秒という驚異的とも言えるタイムでゴールしたのですから、まさに「圧巻」の一言に尽きます。5区を走った神野大地君の、他を寄せ付けない激走を筆頭に、どの区間でもミスのない走りをみせ、箱根路を制しました。そんな青山学院大学を率いた原晋(はらすすむ)監督に、昨今、注目が集まっています。サラリーマン出身という異色の経歴。そして常識に縛られないユニークな指導法で、見事に青山学院大学を、悲願の箱根初制覇へと導いた監督です。

彼について語る上で欠かせないのが「サラリーマンであった」という経歴でしょう。高校時代から駅伝選手としての道は歩んでいたものの、大学では箱根駅伝とは縁がなく、中国電力に入社し、陸上部に入部したものの、適宜怪我に苦しみ、わずか5年で引退。その後は営業職に就きサラリーマン生活を送っていたというのです。営業マンとして大きな実績をあげ、軌道に乗ってきた頃、青山学院から監督の誘いがかかります。ここで引き受けるか断るかというのは非常に難しい問題で、当時相当悩んだとのことです。

しかし、現役時代、何も成し遂げることが出来なかった陸上に対して、何かを残したいと腹をくくり、当時は弱小大学だった青山学院の監督就任を決意します。
その決断力と行動力には頭が下がります。おしなべて人間は「安定」の二文字には弱い生き物で、一度安定を手にしてしまうとなかなかそこから抜け出そうとしないものです。現状に満足し、向上心を失ってしまったら、その先の成長は、あまり望めないものではないでしょうか。向上心を持って、現状に甘んじない自制心と向上心を持つこと。「人間至る処青山あり」の言葉通り常に先を見据え羽ばたいていくこと。そういったことの大切さを原監督の経歴は物語ってくれているような気がします。

原監督はその指導方針もまたユニークでした。
それが顕著に表れているのが、今年度の青山学院のスローガンでしょう。その名も「ワクワク大作戦」。他のライバル校が厳粛なスローガンを掲げる中、かなり緩いスローガンで箱根に挑んだのです。スクールカラーに合うような、見ているものを楽しませるようなレースを!!という思いで付けたこのスローガン。結果的に、5区の山登りで驚異的な逆転劇を見せ、見ているものを引き付けるようなレース展開が生まれました。

しかもその裏には、選手たち一人一人の自主性に重きを置いた、原監督なりの指導がありました。目標設定からそれに至るプロセスまで、全て選手自身に考えさせる。これは、従来の強豪校では有り得なかった指導方針だそうで、これでもって原監督はチームをまとめ上げ、箱根駅伝制覇へと導いたのです。
確かに、「常識」や「慣習」は大切ですし、それに従うべき場面も数多く存在するでしょう。しかし、100%それが正しいとも限りません。柔軟な発想で、常に新しい可能性を切り拓いていく。こういった指導改革は、営業マンという原監督独特の経験があったから出来たのかもしれませんね。陸上も営業も変わらない!!と語っていた原監督の姿が、妙に印象的でした。彼の姿を見ていると、どんな経験も無駄にしてはならないなと、改めて強く思います。一見些事に思えるようなことでも、それがどこで生きてくるかは分かりませんからね。

そんな中、私が感動した点は、「環境」という要因に屈さず、むしろそれを最大限生かして栄冠を手に入れた原監督の芯の強さです。優勝はおろか箱根駅伝への出場すら厳しかった時代。練習するにも練習設備すら満足になかった時代。規律を持たせることすら難しかったチーム状況。正直言って、監督業を諦める理由はいくらでもあったはずです。しかし、それでも挫けることなく挑み続けました。こちらから規律が持たせられないなら、むしろ選手達の自主性を重んじることで、選手達から規律を産み出させました。与えられた環境に不平を言わず、むしろその環境をどう生かすかを考えるという発想の転換。出来ないことを環境や人材といった外的要因のせいにせず、可能性を見つけ出し邁進することが肝要なのだということを教えられた気がします。

現状に甘んじない向上心。
常識にとらわれない発想力。
環境のせいにせず、可能性を切り拓いていく精神力。
年頭に当たり、改めて大切なことを教わった気がします。
原監督を始め、青山学院大学の関係各位の皆さん!!本当におめでとう。
箱根路を走った選手達と、彼らを支えたチームの皆さん!!本当にお疲れ様でした。
平成27年が始まりました。
今かけている襷にさらに汗を染み込ませるも良し、心機一転新しい襷をかけるも良し。
原監督のような心を忘れず、力強く歩んでいきたいですね。