2007年10月16日火曜日

地域防弁慶

「本橋さん、『人権擁護法案』の問題点って何処ですかね」
「何処ですかって、沢山あって面白いから自分で調べてみたら」

 最近の新聞紙面でもうお馴染みのこの法案は、2年前に既に登場しておりまして、この時は廃案になっております。それが今回は、マスコミなどをはじめとする報道機関による批判をかわすためか、「メディア規制条項」をいわば凍結して再提出しております。

 この法案は、本来ならば、今年の3月10日の自民党法務部会で了承されて、その後はお決まりのコースとして、政策審議会、総務会などを経て閣議決定、そして国会提出ということになっていたのですが、事はそうすんなりと進みませんでした。その理由は様々あるでしょうが、私自身感じますことは、自民党の若手保守派グループがこの法案の危険性・問題性に気がつき、急遽、3月8日の夜、若手グループが集まり、この法案についての分析と問題点の洗い出し作業を始めたこと、これに安倍晋三先輩が先頭にたちはじめた事が大きいと思っております。

『はい、本橋です』
『あっ本橋さん?ちょっとこっち来て手伝ってくれない?』
『おいおい、今何時だと思ってるの』

 その若手グループの中には、かつての自民党都連青年部時代の議員仲間がおり、2日後に迫った法務部会での法案承認を阻止すべく、猫の手も借りたいと言った状況を説明し始め、この法案について、憤懣やるかたない気持ちを得々とまくしたてると同時に、終始、何時ごろ党本部(永田町)に着きそう?といった感じでした。が、夜も遅く、既に寝床に潜り込んでいた私は、当然の事ながら動きようもなく(実はめんどくさかった?)、その辺のところを詫びながら携帯を切った事がありました。

 その後の流れですが、3月10日、自民党法務部会が開かれ、保守派反対グループが徹夜で作り上げた論点整理レジュメを元に大論陣を張った結果、直ぐに了承というわけにいかなくなり、その後4・5回法務部会が開かれましたが、この法案はおかしいと主張し続け、現在のところまだ法務部会で論議中という状況になっております。

 前述の都連青年部時代の友人と話をしていて、お互いに一致する問題点はどこかといいますと、それはズバリ「人権の定義は何か、またそもそも人権とは何か」という事です。

 思いますに、「人権とは何か」と人様に問われて一体何人の方が即座に、しかも明確に答えることができるのかなぁと思うくらい、この問題は実に奥深く、しかも広い意味合いを持った概念だと思います。ここらあたりを深く思索して、考え抜いた人達がその人権を語るのならともかく、そうではない一般の国民において、安易に人権という概念を使って社会生活一般を規制していく法体系を構築していくというやり方は、やはり無理があるという率直な感想を持つわけです。ですから、当然の事ながら、法案にも当然無理が出てきますし、その部分が解釈による恣意的な運用の余地を生み、やがてそれの解釈が拡大していくという事態に発展してしまうのです。

「本橋さん、もっと具体的に言ってくださいよ」
「具体的に?、自分で調べようとしないんだからもう」

 一番の論点は、国籍条項でしょう。この「人権擁護法案」では、現在別に存在する「人権擁護委員法」には存在する国籍条項が撤廃されており、日本人に限らず、外国人でも市町村長の推薦を受けて委員になることができるのですが、例えば、今日、未だに解決されてはいない「北朝鮮にる日本人拉致事件」の存在を思うとき、もし仮に、在日本朝鮮人総連合会の関係者が人権擁護委員になり、日本の政治家なり報道機関が、この拉致問題をめぐって朝鮮総連を批判したような場合、人権侵害と糾弾され、自由と民主主義国家においてまさにしっかりと守るべき言論の自由や思想・良心の自由が蔑ろにされてしまいかねません。

 それだけではありません。例えば、「靖国神社」にまつわる日本国内と近隣諸国の反応を見たとき、小泉総理が靖国神社に参拝したとして、人権擁護委員になった方から、私達の「宗教的人格権」が侵害された、ということになると、司法をも巻き込んだ揉め事となってしまいます。といいますのも、「宗教的人格権」といいますと一般の人々からはもっともらしく聞こえますが、これはまさに今法廷で議論されている事柄で、この「宗教的人格権」は果たして憲法で保障された人権といえるのかという論点に関しては、今の司法は100パーセント「ノー」、ゆえにその侵害というものはありえない、という立場を崩してはおりません。人権擁護委員の方におかれては、我良かれとして行動してみても、人権が侵害されたというとき、その侵害された人権が、そもそも本当に・正当に保護されるべき人権かどうかは、やはり司法の場でしか明らかにならないと思いますが、違うでしょうか。そのことをこの法案に出てくる「人権委員会」という所でおこなってしまってよいのでしょうか。

 そこから、この「人権委員会」が二番目の論点となるでしょう。ここでは、なんと裁判所の令状がなくても、独自に関係各所の立ち入り検査ができるようになっており、加えて、関係者の出頭要請、事情聴取や資料の押収なども出来る様になっているのです。この点について法案推進派は、これは強制ではなく、拒否することも出来るとは言ってはおりますが、正当な理由なくして拒否すれば過料が科されてしまうからくりになっており、これはあたかもはじめから言うことを聞きなさいと言ってるようなものなのです。 

 さらに問題は、法案推進派は、幼児や高齢者の虐待など、特定の人権侵害に限定的かつ慎重に運用する、と言っておりますが、法案反対派の主張、つまり幼児や高齢者の虐待については個別の法律で対処すればいいことであって、これほど問題のある法で、様々な人権問題に対して、包括的・網羅的に規制の網をかける必要はないとする意見のほうが説得力があるでしょう。

「ここまでくると、豊島区の『子ども権利条例』に・・・、何か似てるな・・・」(続く)

2005/5/1(日)